「ダイバーCity中村」

春の花の香り、夏の太陽のきらめき、秋の葉の彩り、冬の純白。4月から新年度が始まる今、平成30年度の1年に思いを馳せてみました。しかし、同じ四季であるのに、春の落ち着かない拡散感、夏の厳しい暑さ、秋のもの悲しさ、冬の厳寒の息苦しさ、のように感じる人もいるかもしれません。同じ場所で同じ時を過ごしている人々が、同じように感じる必然性はありません。春を「ほのぼの」と表現する人や、「不安定」と表現する人がいる。冬を「透き通っている」と表現する人や、「閉ざされている」と表現する人がいる。

世界には独自の文化を持つ人々がいます。日本にはさまざまな地域文化を持つ人々がいます。東京には種々雑多な考え方を持つ人々がいます。清澄白河には新旧入り混じった慣習を持つ人々がいます。そして、中村にもいろいろな人々がいます。多様な価値観を持った生徒が集まるCity、それが中村中学校・高等学校です。

今年、創立109年目を迎える本校は「ダイバーCity中村」を追求します。多様性に溢れた街で、より多くの人と繋がり、知の融合が起こる街、それが中村です。その中で、ぶつかり合いながら、入り混じりながら、否定したり認め合いながら、一人ひとりが新しい自分を発見していく。このプロセスこそが、一人ひとりの四季の受けとめ方を深化させていくと信じています。

「真実」

勉強をしていると、自分の弱い部分を意識することがあります。「計画通りにいかなかった」、「また三日坊主になってしまった」、「知らないうちに居眠りしてしまった」、「問題が難しくてすぐに諦めてしまった」。こんなことが続くと、自分の至らない点ばかりに目がいってしまうことがあります。

どんな人でも、自分の未熟な部分に向き合うことは辛いことです。現実を突きつけられて何とも思わない人はいません。呼吸のできない海に潜っていくような苦しさがあるかもしれません。そんな苦難からは逃げ出したいと思うのが自然な感情です。

しかし、短所ばかりに目を向ける必要はありません。私たちには長所もあります。素晴らしい部分も改善すべき部分も、両方持っているのが私たちなのです。海に潜らなくてもいいのです。地上で水平に進んで、自分の幅を広げ奥行きを増していくことでも、短所は改善され長所は増えていきます。水平の歩みには海底に潜るような息苦しさはありません。また、ちょっと元気のある時なら、丘に登ってみるのも一案です。登っている時には少し苦しいかもしれませんが、見晴らしの良い場所に辿り着いたら深呼吸できる爽快感を得ることができます。その爽快感は、短所の克服や長所の更なる伸長がもたらすものです。

真実は一つです。「どんな方法でも、努力すれば必ず成長する」。

「トランジション」

高等学校の卒業証書授与式が近づいてきました。あと8日で、6年間毎日のように校内で顔を合わせていた高校3年の生徒たちがいなくなってしまいます。「巣立ち」「門出」「旅立ち」。卒業は、いろいろな言葉で形容されます。私は今、一種の欠乏感に包まれ始めていますが、その感覚の深さは学年の先生方の比ではありません。「笑顔で送り出したい、でも、巣立ってほしくない」。卒業式の準備をしている時、担任の先生方の心にはこのような葛藤があります。生徒との結びつきが強い、中村ならではの心情です。

巣立っていく生徒たちは、「生徒」から「卒業生」に立場が変わります。そのトランジション(節目)に際して、寂しさを感じる人もいるでしょう。卒業したくないと思う人もいるでしょう。しかし、人生はトランジションの連続とも言えます。「何かが終わり、中立の状態を経て、何かが始まる」。終わった時の気持ちをニュートラルにする、そして、次のステップへの強い気持ちを創り上げていく。どんな節目であっても、いくつ節目があっても、それを乗り越えていく力が、6年生には身についていると私は信じています。

生徒にとって中村は「学校」です。そして、卒業生にとって中村は「母校」です。単なる出身校ではありません。109年間に亘って、女性である先輩たちが創り上げてきた母校なのです。時には、「母港」として位置づけてくれても大歓迎です。

「ファーストペンギン」

2月17日(土)に、「第1回新入生と保護者のための説明会」を行いました。一般入試、特待生入試、ポテンシャル入試、適性検査型特待選抜入試に合格した、「多様な力」を持った小学生が集いました。新入生たちは緊張した面持ちでしたが、お互いに自己紹介をしてもらった時には、笑顔が溢れていました。説明会では、創立109年目を迎える中村の「20世紀からの伝統」を心に刻み、「21世紀からのキャリアデザイン」を実践し、私たちが追求する「22世紀型教育」を自分のものにしてほしい、という校長としての思いを語りました。

説明会終了後、私は、「宇宙よりも遠い場所」というアニメを思い出しました。この作品は、何かを始めたいと思いつつ最初の一歩が踏み出せない女子高校生が、南極行きを切望する同学年の仲間と出会い、南極を目指す物語です。

新入生たちは、友だちのいる地元の中学校ではなく、中村中学校を選びました。この12歳の決断は正に、新天地への「最初の一歩」です。不安を恐れず勇気を持って挑戦する姿は、「ファーストペンギン」と言ってもいいでしょう。南極を目指すことも、中村を選ぶことも、集団の中に埋もれていては困難です。誰かがやってくれると思っていては、自分で歩んでいくことはできません。多くの人の支えに感謝しつつ、自分の意志で海に飛び込む強い気持ち。このような主体性を持った新入生が、109年目の中村に薫風を吹かせてくれるでしょう。

「魔法の言葉」

中学1年生の国語の授業で、詩の鑑賞が行われました。たくさんの詩を読み、自分が気に入った詩を選んで、ワークシートにその理由と感想を書き、投票しました。その結果、「朝っていいね(浅田真知さん)」と「いのち(関根清子さん)」が上位2編に選ばれました。(「子どものための少年詩集2017<銀の鈴社>」掲載)

なんと、その詩人お二人が授業に来てくださいました。教室という生徒と同じ空間で、ご自身によるご自分の作品の朗読から始まり、生徒の感想や意見に耳を傾けてくださり、快く質問に答えてくださいました。生徒にとっては一生に一度の授業かもしれません。

生徒たちからは、「新しい力が湧いてきた」「今、自分が生きている意味、価値が分かった」などの感想が発表されました。お二人からは、「詩が好き。『これを伝えたい』という言葉を何年かかっても見つけて使いたい」「『書くことは生きることだ』と思うくらい書くのが好き」というお言葉をいただきました。

生徒たちは、大好きなことを見つけた人生の先輩たちから何を学んだのでしょう。「大好きって楽しいだけじゃないんだ」「大好きって人への感謝の気持ちも含まれているんだ」「大好きって人のこころにも繋がっていくんだ」「大好きって長く続けられることなんだ」「大好きって明日や未来に繋がっているんだ」

「大好き」は、今の自分に素直に向き合える魔法の言葉です。

受験生の皆さん。明日、目覚めたら、今まで入試に向けて頑張ってきた自分に「大好き」と言ってあげましょう!

「貴い営み」

入試が近づいてきました。小学6年生、中学3年生、高校3年生の皆さんにとっては、ハラハラ、ドキドキしながらも自分を励ましながら懸命に勉強に集中している時期でしょう。昨年末の全校集会では、受験を控えた高校3年生に、全校生徒が激励の拍手を贈りました。

入試は受験生にとって大きな、大きな節目です。学力向上を常に意識すると同時に、「自分」という人間に目を向ける機会が多くなる転換点です。受験勉強をしている自分をもう一人の自分が見つめて、褒めたり、励ましたり、批判したり、否定したりする。こんなことを繰り返しながら過ごす時期です。

イソップ寓話にこんな話があります。「プロメテウスは人間を造った時、二つの袋を首に掛けさせた。体の前には他人の欠点を入れる袋、背後には自分の欠点を入れる袋。それ以来人間は、他人の欠点はよく見えるが、自分の欠点は見えないのである。」

でも、受験生の皆さんは、自分の欠点に日々向き合っているのです。それは、今までの自分を振り返り、反省し、改善に向けて決意することに繋がります。もがきながらも「前に進む力」を高めているのです。受験勉強への取り組みは、実は、人の成長における貴い営みの一つなのです。壮大なことに果敢に挑戦している皆さんにエールを贈るとともに、今年が皆さんにとって素晴らしい年になることを心からお祈りしています。本年もどうぞよろしくお願いします。

「雪」

寒さが一段と厳しくなってきました。皆さん、規則正しい生活をして栄養バランスの良い食事を摂って、健康を維持してください。

長野県に4年間住んでいたこともあって、冬になると何となく雪をイメージしてしまいます。雪の結晶は、大気中を漂うチリなどを核に氷の粒ができ、そこに水蒸気が集まり、木の枝が放射状に伸びるように成長していくそうです。121種類の結晶があるという研究結果もあります。また、複数の結晶が互いにくっつくことで、数センチ程度の雪片(せっぺん)ができあがり、密度が低く空気抵抗が大きいため、空からふわりふわりと舞い降りてくるそうです。

生徒の個性も多岐に亘ります。もちろん、個性と個性はくっつきます。それが校内でどんどん広がっていきます。雪片と同じように、適度な隙間を維持してくっついていきます。お互いの個性を尊重しながら、一つの集団を作りあげていくのです。その集団は雪片とは比べものにならないくらい大きなものです。しかし、適度な隙間、つまり一人ひとりの居場所が尊重されているので、つながりが強く大きいのに、ゆっくりと降りてくることができるのです。

中高6年間は、くっついた個性が綿雪のようにふわりふわりと舞い降りてくる期間なのかもしれません。6年生の皆さんの心に、おめでたい予兆の雪と言われている「瑞雪(ずいせつ)」が舞うことを心から祈っています。よいお年をお迎えください。

「姿勢」

先日、私がキャリアコンサルタントとして、中学校1年生全員に50分間のキャリアデザイン授業を行いました。テーマは「先輩になろう」です。その中で、「皆さんには多くの役割があります。大切なのは役割に取り組む気持ちです。例えば、犬と散歩に行く時に、『なんで行かなきゃいけないの』と思いながら行くのと、『よし、行こう、犬と一緒に楽しもう』と思って行くのとは全然違います。」という話もしました。

同じことをやっているのに、人によって心の中は全く違います。同じ人でも置かれた状況によって違う時があります。どうせやるなら、「よし、やろう」という前向きな気持ちになって、「犬と一緒に楽しもう」という目標を持ってやった方が効果的です。その日暮らしのような「成り行き人間」より、未来の自分を見つめた「目標人間」になりたいものです。それが、「先輩になる」ということなのです。

授業後、1年生に振り返りをしてもらいました。そこには、「残り4ヶ月弱の学校生活では、2年生になった自分を想像して、目標を立てて過ごしたい」、「役割に取り組む気持ちを向上させ、もっと自分の中で考えを深めたい」と書いた生徒もいました。入学してから8ヶ月、家庭で、授業で、クラスで、学年で、部活動で、習い事で、心も身体もしっかりと伸びている13歳です。学年目標「美しい姿勢を保つ」を、あと4ヶ月弱で達成できそうな生徒たちです。

「100年ライフ」

「2007年に日本で生まれた子どもの半分は、107年以上生きる」ロンドン・ビジネススクールのリンダ・グラットン教授、アンドリュー・スコット教授が昨年11月に出版した「ライフ シフト」という本の中に書かれている言葉です。

「そんなに人生、長いんだ」という声が聞こえてきそうですが、小学生の皆さんだけでなく本校の生徒も、そして日本中の多くの児童・生徒も、2100年を迎えることができそうなのです。「10年あれば結構大きいことを成し遂げることができる」とよく言われますが、22世紀を迎える人は、一生のうちにいくつもの挑戦をして、いくつもの成果をあげることができるかもしれません。

小学生の皆さんは中学入試という目標を見据えています。中学生・高校生の皆さんは大学入試という目標を見据えています。しかし、自分の一生を考えると、その目標だけで「今」を生きていいのかな、という疑問が湧いてくると思います。

その疑問に向き合ってみませんか。「目標の時間軸」をもっと未来に伸ばしてみませんか。大学卒業時の22歳でもいいでしょう。キャリアデザイン授業で目指している30歳でもいいでしょう。或いは、不惑の年齢でもある40歳でもいいでしょう。自分の心の中の時間軸を長くすればするほど、今やっていることの付加価値が増えていきます。100年ライフを短く感じるかもしれません。

「トンネル」

6年生の皆さん、中学入試が近づいてきました。勉強が思うように進まず、焦っている人もいるかもしれません。「これでいいのかな?」と自信を持てない人もいるかもしれません。苦手教科を心配している人もいるかもしれません。入試のことが頭から離れない人もいるかもしれません。まるで、ずっと先の小さな出口しか見えないトンネルの中にいるように感じている人もいるかもしれません。

「トンネリング効果」という言葉があります。「まるでトンネルの中にいるみたいに視野が狭くなり、先の出口しか見えなくなる集中した状態」を表す言葉です。皆さんは、いろいろな心配を抱えつつ、一歩一歩着実にトンネルの中を歩んでいけばいいのです。「心配してもいい、でも迷うな」と自分に言い聞かせてください。トンネルという環境は見方を変えれば、他のことに影響されずに一つのことに専念できる環境です。「入試に集中できる環境である」とも言えます。

もし不安な気持ちが湧いてきたら、後ろを振り返ってみましょう。トンネルの入り口は出口よりずっと小さく見えるはずです。出口までの距離より遥かに長い道のりを歩んできたことに気づくはずです。支えてくれる人に感謝して、今まで頑張ってきた自分を褒めて、まっすぐ前を見て堂々と、自分の足跡を確実にトンネルの中に残してください。心から応援しています。