「早生と晩生」

植物の世界には、早く成長して実がなる「早生(わせ)」と、遅く成長して実がなる「晩生(おくて)」があります。子どもの世界でも、最初から聡明でさまざまなことを達成できるタイプが神童と言われたり、徐々に頭角を現していくタイプが大器晩成と言われたりします。

先日新館で、全校生徒の推薦本が収納されている「私の1冊」という書棚の前で、生徒が選んだ書籍を見ていた時、一人の高校3年生が私の隣に来ました。「本が好きなの?」と尋ねると、「この書棚にある本は、ほとんど読んでしまったものなんです。暇さえあれば、時間を忘れて本を読んでしまうので、困ってるんです。」と、会話が始まりました。

「評論やエッセイも読みますが、小説が多いです。」「フランソワーズ・サガンは読んだ?」「まだです。気がつくと朝になっている時もあるんです。」「分かるよ。私も高校・大学の時、徹夜で読書して、そのまま授業や講義に行ったことが何回もあったから。」「読んだ本は手元に置いておきたいので、どんどん本が増えていくんです。」

和やかな心の会話でした。この生徒は一般的な高校生より読書量が多いという点では、早生かもしれません。しかし、これからも読み続けていくという意味では、晩生かもしれません。もちろん本人にそのような意識はありません。無意識のうちに、自分の可能性を広げる知的な営みを継続しているのです。

これから、どんな花を咲かせ、どんな実をつけるのか、楽しい想像がふくらんでいくひとときでした。

「若鮎」

釣り人が待ちに待った「鮎」のシーズンが今年も始まりました。各地の川に長竿が並んでいます。私も子どもの頃、父と一緒に神奈川県の酒匂川へ、よく鮎釣りに行きました。鮎は清流の女王と言われています。綺麗な水を好みます。そして、鮎は優美なうえに涼しげで、成魚になると主に岩に付着した藻類を食すため、お腹の中が黒くありません。また、鮎の多い川へ行くと甘い香りがすると言われています。鮎には香気があるのです。

しかし、鮎には、このような清楚なイメージからは想像できないような縄張り意識があります。川底の自分の気に入った岩の周辺で過ごし、他の鮎が近寄ってくると追い払う習性があります。自分のテリトリーをしっかり持っているのです。女王と言われる所以かもしれません。

私たちは皆、弱い部分を持っています。しかし、そのもろさが腹黒さを生まないように努力しています。その迷いが邪気を発しないように気をつけています。そのはかなさが倦怠を生まないように意識しています。自分を見つめながら生きているのです。

生徒も自分自身と葛藤しながら、鮎の持つような言動の優美さ、心の清澄を追求しています。自分のテリトリーを持ちながらも、さまざまなことに対応できる柔軟性も養っています。生徒たちのはつらつとした表情を見ると、勢いのある「若鮎」を思い出します。もちろん、生徒の一生は鮎の一生の100倍ですが・・・。