「打たれ強さ」

数年前ですが、本校の高校3年生と志望大学について話をしていました。その生徒は、地道な努力を中学1年生からずっと続けてきた、学力のある生徒でした。学校の授業と授業担当者にすすめられた参考書や問題集を併用するだけで、学力を高めてきた生徒でした。

受験する大学はすべて難関私大で、現役合格を目指しており、受験科目は国語・英語・社会で、バランスのとれた学力を持っていました。私は、今までの努力の成果が確実に偏差値に表れていると感心しましたが、褒めることはしませんでした。それどころか、このままでは第一志望校合格が危ういと思ったので、「このままじゃ、第一志望校は無理だ」という厳しい言葉を発しました。

両親からも先生からも勉強のことで叱られた経験がなかったようで、かなりショックを受けた様子だったので、今後の学習について具体的にかつ詳細に相談をして、受験までの学習方針を明確にしました。

その生徒は見事第一志望校に合格しましたが、その報告に来てくれた時、「生まれて初めて勉強のことで、先生から厳しい注意を受けました。しばらくは立ち直ることができませんでしたが、『やるしかない』と気持ちを切り替えて頑張りました」と話してくれました。家庭でも学校でも叱られた経験がなかったのです。「すごいね、優秀だね」と褒められたことしかなかったのです。高校3年生で初めて挫折を味わったのです。

自分の思い描いた通りにいかなかった時に、這い上がろうとする活力が「打たれ強さ」です。立ち止まらなければいい、諦めなければいい、もう一回やればいい、叱られても褒められてもやることは同じだと思えばいい。努力を続けていると、こんな「打たれ強さ」が自分の心の中に必ず育ってきます。皆さんの心の中にも・・・。

 

「言葉を選ぶ」

私は海辺まで歩いて30分くらいの所に住んでいます。お休みの日に、エル(トイプードル)と海岸まで散歩することもあります。最寄り駅も海の近くなので、風向きによっては、ホームに降り立った時旅行に来たような錯覚を覚えることもあります。

ある日、電車から一緒に降りた中学生くらいの女の子が、「海のにおいだ」という言葉を発しました。その時私は、「この子はどちらの漢字を使うのだろう?」と興味を抱きました。「臭い」なのか「匂い」なのか。前者であればマイナスの感覚が、後者であればプラスの感覚が心に生まれていることになります。

もし、「海のいい匂いがするね」という夢のある発言であるならば、もっといろいろな表現が考えられます。「海の香りがする」「潮の香りがする」「潮の香だ」「海風を感じる」「海風の香りがする」「海風がそよいでいる」「磯の香りがする」

「海のにおい」を「海の香り」に変えるだけで、心の情景は一変します。家族旅行で訪れたコバルトブルーの海の色が蘇るかもしれません。その時の母親の幸せ一杯の笑顔を思い出すかもしれません。自分が描いた絵日記の色づかいを懐かしく思うかもしれません。

今はほとんど使われなくなってしまいましたが、「﨟長ける(ろうたける)」という言葉があります。「洗練されて、美しくなる、品がある」という意味です。作家の下重暁子さんは「自分の考えや意見を何度も練って、研ぎ澄ましていく、そういう作業を経てこそ品は出てくるもので、言葉を選ばずに発言するだけでは空疎でうるさいだけだ」と仰っています。

思考を練って、研ぎ澄ましていくには言葉が必要です。「におい」を使って考えるのか、「香り」を使って考えるのか。多くの語彙を持ち、使う前に言葉を選ぶ。その地道な積み重ねが未来の自分の「品」を創っていきます。読書の秋です。

「弱い自分を認める強さ」

小学校6年生の皆さん、中学入試が近づいてきました。今、皆さんの心の中には、「心配という雲」が湧き上がっているのかもしれません。その雲は皆さんの心に、雨を降らせるかもしれませんし、風を吹かせるかもしれません。雨で心が憂うつになったり、風で目を開けられなくなったりすることがあるかもしれません。

雨も風も、自分の力ではどうにもならない現象です。でも、下を向いたりしないでください。お母さんやお父さんが、雨に濡れないように大きな傘をさしてくれています。塾の先生や習い事の先生が、風によろめかないように壁になってくれています。皆さんは一人ではありません。兄弟姉妹も応援してくれています。おばあちゃん、おじいちゃんも見守ってくれています。心配な時は自分以外の人に頼ってもいいのです。助けてもらっていいのです。ちっとも恥ずかしいことはありません。

でも、自分で自分を励ますことを忘れないでくださいね。傘の下でも、壁のそばでも、上を向きましょう。鋭いまなざしを向けて、雲の上にある陽光を心の眼でしっかりととらえましょう。「心配という雲」を吹き飛ばそうとしなくていいのです。その上にある「希望という光」を感じるだけでいいのです。

そのためには、弱い自分を否定するのではなく、弱い自分を認めることが必要です。「心配になってもいいんだ、それが普通の12歳なんだ」と思うことが大切です。ありのままの自分を受け入れて、その自分ができることをやり抜きましょう。中学受験を通じて、「弱い自分を認める強さ」が身についてきます。

「人とつながる」

先日、深川江戸資料館で、深川母の会主催の「深川親と子の集い 第30回中学生の意見発表会」が行われ、地元の中学校11校の代表が「SNS」についての意見を発表しました。他校は3年生の生徒会会長や副会長が参加していましたが、本校からは2年生が参加しました。多くの先輩たちが堂々と意見を発表する中、緊張しながらも落ち着いてしっかりと自分のメッセージを聴衆に伝えていました。

SNSの利点や危険性、コミュニケーション手段としての長所・短所、使う時のルールやマナーについて、さまざまな意見が発表されました。本校の生徒は「自分次第でSNSは変わる」と題して、「使う人が笑顔になる」という意見を主張していました。

これからの社会は、人工知能社会、ビッグデータ社会、GAFA(Google・Amazon・Facebook・Apple)社会などとも言われています。中学生は、日々進化するSNSをスポンジのように吸収し利用する柔軟性を持っていると同時に、その危険性も理解しています。また、SNS依存症に対しても自覚を持って自制しようとしています。

「自分次第で」というテーマには、使う人の「主体性」が表れていました。そして、「笑顔」というメッセージには、「人と人とのつながり」を大切にする自分軸が表れていました。「SNSに振り回されずに、人が幸せになるためにSNSを活用するんだ」という力強い意志が聴衆に伝わった発表でした。